お侍様 小劇場
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   “ばんばれ、仔猫さん” (笑) 〜寵猫抄より


今日は悲しいお別れがありました。
これからしばらくは
とってもとっても寂しくなるけど、
うん、大丈夫だよ。
ううん、泣かないもん。
みんなに負けないように、
ボクだって強くならなくちゃあ いけないんだもん。
だから、


  ―― コタツさん、今までありがとう
     冬まで、ちょっとだけバイバイね





     ◇◇◇



結局は昨年と変わらない間、
ずっと出してたことにならないかというロングラン。
夏日を記録してもなお、
ついついうっかりと出したままだったやぐらコタツ。
掛け布団を干し出したのを切っ掛けに、
掃き出し窓の前、燦々と陽の照る中にて、
小さな小さな仔猫様と、正座同士で向かい合った七郎次。
なあ久蔵、もう仕舞ってもいいかなぁと
出来るだけ怖ず怖ず…もとえ、穏やかに持ちかけたところ、

 『…みゃ? ………っ!』

小首を傾げていた幼いお顔が、だが。
二人の狭間に、天の川みたいに長々と、
引っ張り出されて横たわっていたコタツ布団を見てしまい。
ハッとしてからのすぐにも、
ふくふくとした幼いお顔が、
見る見る、驚愕とも哀しみとも言えぬ感情に張り詰めたものの。

 『あっあっ、えっとあのその〜〜っ。』

その変貌振りへあわわと狼狽し、
白皙の美貌を引き歪ませての、
今のナシねナシと大焦りでおっ母様が言い出す前に、

 『  みゅ〜〜〜、みゃう。』

口許へ嗚咽を無理から縫い止めたかのように、
内から何か盛り上がりかかるのを、
必死で歯を食いしばって我慢しつつも。
ふりふりとかぶりを振って見せ、
小さなお手々を延ばすと、
布団をぐいと押しやったかわいい子。

 『もうもう、何てまあ、お兄ちゃんになったことやらvv』

まだまだ朝早くは肌寒かったりしますから、
スイッチは入れずとも、
もぐるの大好きとばかり、
毎朝まずは駆け込んでましたのにね。
今年もキュゾウくんに頼まなきゃダメかなと、
こそりと思っていたのですが…と。
感動の決断だったこと、
まずは興奮気味に、二度目はしみじみと、
勘兵衛へ語って聞かせた七郎次だったらしい。
……まあ、そこまでは“お約束”ということで。(笑)

 「にゃぁん、みゃう。」

そろそろ本格的に初夏の気候になりつつあるからだろう。
よほどに風が強いとか、勢いのある雨が降りでもせぬ限り、
七郎次があちこちの窓を朝から開け放つようになり。
爽やかな空気とともに、ご近所の物音もより鮮明に届くようになった。
とはいっても、ここいらは大きめのお屋敷が多いので、
庭同士が接していれば相当な距離があるのだし、
さほどはっきりくっきり、
家人の会話まで届くということはなかったけれど。

 「  みゃっ?」

アルミの器が勢いよく転がる音がして、
鎖のじゃらじゃらと躍る音、はっはっという息遣い。
ああこれはもしかせずとも……、

 「 アロウ、散歩に行くわよ。」
 「あうんvv」

大きく開け放った窓の縁、
リビングの板の間にころんちょと寝そべっていた仔猫が、
途端にガバチョと反射的とも言える素早さで身を起こし。
そんなただならぬ気配を…視野の隅にて察した作家せんせえが、

 「???」

何だ何だ何ごとかと、
新聞の紙面から目線を上げたほどだったが、

 「○○さんチのアロウくんですよ、きっと。」

朝ご飯に使った食器を片付けて来た七郎次が、
湯飲みの乗った盆を手に、くすすと苦笑をして見せる。
朝と夕方、奥さんが散歩に出るんですが、
その気配を嗅ぎ取るたんび、
久蔵があんな風に落ち着かなくなってしまって。

 「そうか。」


  ―― 勘兵衛様、
     角の○○さんところで、
     半年ほどの話ですが、
     ゴールデンレトリバーを飼うことになったらしいんですよ。

    ほほお?

    何でもお知り合いのところの子で、
    海外へ出張なさる関係で、
    その間だけ預かることになったとか…。


先日、当家のブロック塀から落ちかかった身だったの、
広い背中で受け止めてもらったのに。
それからさして経たぬとある日なぞ、
仲よしのキュウゾウお兄ちゃんが仲立ちになって、
お座りした彼と、随分と至近にて向かい合うまでに至ったのに。
それでもやっぱり苦手なものはしょうがないというところか、
結構な距離があるあちら様の気配を、
わざわざ拾っちゃあこの様子が続いているらしく。

 「いやなら、昼までは奥にいれば良いんですのにね。」

中庭に向いた別のお部屋や、
玄関ホールから勘兵衛の執筆用の書斎までの間、
長々した廊下の一角も、
掃き出し窓が連なる そりゃあ明るい板張りなのに、
誰もいないのが寂しいからか、
結局は外の様子が最も届く、
リビングの窓辺でそわそわしているのだから世話はない。
そんなこんなと御主様と語らっておれば、

 「にゃうみゃあ、まうう〜。」

戻って来た七郎次に気づいたか。
窓辺からピョコンと飛び上がると、
勢いの移動に任せてという感の強い、
お膝をほとんど曲げないままでの、
ぱたたぱたたとの一目散に。
おっ母様のお膝目がけて駆けて来るのが、

 「〜〜〜〜〜。///////」
 「お主も、以前にもまして やに下がってはおらぬか?」

何とも幼く、愛らしく。
何よりも…安堵を求めてという必死さからだろう、
そりゃあ切なそうなお顔になって。
シチ、シチと駆け寄って来るのが、

 『もうもう、愛らしいやら愛しいやらvv』

頬に手を当て、うっとりと頬笑む秘書殿なのへ、

 『一歩間違えれば、どS発言ではないのか? それ。』

さすがはジュブナイルも書いている島谷せんせえ、
そういう蓮っ葉な言い回しも多少はご存じであるらしく。
少々伏し目がちになって言ってやり、
いやですよ、そんなんじゃありませんてと、
慌てて焦っている今は、まだ大丈夫かねとの確認取っておいでな様子。


  とりあえず。
  ちょっとずつながらも変化が起きつつあるらしき、
  島田さんチの周辺と、仔猫さま自身であるらしく。
  願わくば

  「キャ〜〜、アロウちゃん、待ってぇ〜〜っ。」
  「………っっ☆」

  ○○さんの奥様には、あんまりリード振り払われぬよう、
  望んで止まぬ久蔵ちゃんであったらしいです。




   〜Fine〜  2011.05.16.


  *ばんばれというのは幼児語の“がんばれ”のつもりです。(笑)
   ○○さんチの新顔、
   人懐っこいゴールデンレトリバーちゃんは
   どうやら“アロウ”という名前だったらしいです。
   リードが外れると矢のように一直線、
   久蔵ちゃんに懐きに来るから困りもので。
   予想しないで飛び込まれるよりかはと、
   リビングにて気配を嗅いで警戒したおしてる仔猫様。
   夜中はきっと、お兄さんの姿で敵討ちに行ってたりするかもです。
   ウリウリウリと頭をくしゃくしゃに撫で回したり、
   こっちが大きいんだぞとの威圧とともに、
   お手やお座りさせまくったり。

   《 もしかして、だから懐かれてんじゃないのか、お前。》
   《 …………。》

   兵庫さんの見解へ、米100俵!
(苦笑)

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